クジラ類は哺乳類でありながら、完全に水中生活に適応した動物です。私たち人間と同様に、肺で呼吸をし、温血で、子供をうみ、母乳で子を育てます。 現在、生存している鯨類は83種類。その中には、世界で最大の哺乳類といわれる、シロナガスクジラも含まれます。クジラに限らず、海洋に生きる生物全般に広くあてはまることですが、海中で生活している生物は、習性や個体数などを調査するのが難しく、はっきりとわかっていないことが多く残されています。
鯨類の特徴
大きさ:
クジラは大きな動物という印象がありますが、種によって体のサイズはさまざまです。哺乳類の中で最大のシロナガスクジラ(体長約25m、体重200t)から、ラプラタカワイルカ(体長約140cm、体重30kg)まで、種によって大きく異なります。
繁殖:
ヒゲ鯨類の妊娠期間は多くの種類で1年前後といわれています。仔は成長率が高く、シロナガスクジラでは生まれてから離乳するまでの8カ月の間に、1日に90kgも体重が増えることがあります。また、クジラの最も強い社会的きずなは、母子の関係といわれています。
呼吸:
水面での呼吸がしやすいように、鼻孔は頭の上部にあり、海中での生活に適した形になっています。また、呼吸する際には、鯨類独特の噴気(しお)をあげ、この形や大きさから、そのクジラの種類を見分けることができます。
ヒゲクジラとハクジラのちがい
クジラには大きく分けて、二種類のタイプがあります。それぞれの特徴と違いを見てみましょう。
| タイプ | ヒゲクジラ | ハクジラ |
|---|---|---|
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| 特徴 | 種によっては3メートルにもなる「ヒゲ」(上顎の歯茎が変化したもの)を持つ。このヒゲは、プランクトンなどの小さな生き物を、海水ごと呑み込んで、こし取るのに使われる | 両顎、または下顎に、獲物を捕えるための歯を持つ。シャチやその他のイルカ類は、このハクジラの仲間に含まれる。 |
| 食べ物 | オキアミ(エビに似た甲殻類)や、カニ、動物プランクトン、ゴカイなどの無脊椎動物、ニシンやイワシのような群集性の小魚など、小さな生物を大量に食べる。ザトウクジラなどは協力して狩りをすることで知られている。 | イカやタコ、ニシンなど群をつくる魚類のほか、アザラシやペンギン、ウミガメなどを食べる。またシャチのように他の鯨類を襲うものもある。食べる獲物によって、種ごとに歯の大きさ、形、並び方などが異なる。 |
| 行動 | 食べものを探す場所と繁殖するための場所を回遊するため、大洋を広く移動する種が多い。また、海面近くで食物を取る為、水深100mまでの範囲で活動している。 | 1年を通じて食物が多い海域にとどまって生活するものが多い。獲物を追って、深く潜ることがある。中でもマッコウクジラは、3000mの深海にまで潜るといわれている。 |
| コミュニケーション | 一般に低い周波の音を発し、ハクジラのようなホイッスル音やクリック音は出さない。ザトウクジラの雄が繁殖期に出す音は、クジラの「ソング」として知られている。 | ハクジラ類はすべて、高機能のセンサーのような器官を持つ。クリック音という高周波の音を発し、物の様子や距離を知ることができる能力である。また、この音は、クジラ同士のコミュニケーションにも使われる。 |
クジラによって事情はいろいろ
クジラ問題が語られるとき、ほとんどの場合、単純に「クジラ」という表現が使われます。しかし、十把ひとからげにするには、クジラはその種類によって、事情があまりにも異なっています。
IWCの対象になっているのは、現存する83種のクジラのうち13種。かなりの数の個体数がいると推定され、捕鯨議論の対象とされているのは、ミン ククジラの一部の個体群のみです。ミンククジラのように十万単位の個体数を保っているクジラがいる一方で、相変わらず絶滅の危機から脱せない種も少なくな いのです。
また「クジラは増えている」という表現もよく使われますが、乱獲が起きる前と比較して「増えている」のか、あるいは、激減した末の最低値に比べて少 し回復してきた状態なのかで、全く事情は違ってきます。野生生物の個体数というのは、常に推定値です。しかも、海洋生物の個体数の把握は、陸上の生物以上 に難しいことも事実です。
どのクジラ種を想定した話なのか。何に基づいて出された個体数のデータなのか。クジラについて議論する際、それらをはっきりさせ、共通認識としておかないと、話がいたずらに紛糾するばかりで無意味なものになってしまいます。

シロナガスクジラ(写真)は今も絶滅が心配される鯨類の一種。一方、ミンククジラは十万単位の個体数があると推定される。
(C)WWF-Canon/Pieter LAGENDYK
| 世界の代表的な大型鯨類とその状況 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 種名 | 学名 | IUCNのREDLIST(2002) | 分布 | ||
| セミクジラ類 | セミクジラ | Eubalaena glacialis | EN 絶滅危惧種 | 北大西洋、北太平洋 | |
| Eubalaena japonics | |||||
| ミナミセミクジラ | Eubalaena australis | LR 準危急種 | 南半球 | ||
| ホッキョククジラ | Balaena mysticetus | LR 準危急種 | 北極海とその周辺 | ||
| ナガスクジラ類 | シロナガスクジラ | Balaenoptera musculus | EN 絶滅危惧種 | 北大西洋、南半球 | |
| ピグミーシロナガスクジラ (シロナガスクジラの亜種) | B.m. brevicauda | DD 情報不足種 | 南半球 | ||
| ナガスクジラ | Balaenoptera physalus | EN 絶滅危惧種 | 北大西洋、地中海、南半球 | ||
| イワシクジラ | Balaenoptera borealis | EN 絶滅危惧種 | 北大西洋、南半球、北太平洋 | ||
| ニタリクジラ | Balaenoptera bydei | DO 情報不足種 | 太平洋 | ||
| ザトウクジラ | Megaptera novaeangliae | VU 危急種 | 大西洋、北太平洋、インド洋北部、南半球 | ||
| ミンククジラ | Balaenoptera acutorostrata | LR 準危急種 | 北太平洋、北大西洋 | ||
| クロミンククジラ | Balaenoptera bonaerensis | 南半球 | (現在、見直し中) | ||
| コククジラ類 | コククジラ | Eschrichtius robustus | LR 準危急種 | 北太平洋 | |
| マッコウクジラ類 | マッコウクジラ | Physeter macrocephalus | VU 危急種 | 全海洋 | |
| |||||
クジラ類の減少と保護の歴史
シロナガスクジラやセミクジラなど大型鯨類の仲間は、近代以降その数を大幅に減らした野生動物の一つです。これらの希少なクジラ種は、今も手厚い保 護を必要としており、絶滅の危機から救われてはいない状況に置かれています。大型鯨類減少の大きな原因は、数世紀にわたり世界規模で行われてきた捕鯨活動 でした。
第二次世界大戦後、世界的な食糧不足から、捕鯨の需要は増加します。そのような中、資源の枯渇を危惧する声が上がり、1948年に設立された、各国の捕鯨を管理する国際組織IWC(国際捕鯨委員会)で、年間の捕鯨枠が決められることになりました。
しかし、この取り決めは大きなクジラを捕るのが有利な早い者勝ちのルールだったため、各国がわれ先に大型鯨類を捕る結果を招き、逆にシロナガスクジラのような大型鯨類を、さらに危機に追い込むことになってしまいます。
その後、それまで欧米の生活必需品であった鯨油(マーガリンなどの原料に使われた)は、さまざまな代替品の登場によって、市場での競争力を失い、欧米諸国は捕鯨から撤退します。しかしその時すでに、長らく捕鯨の対象となってきた鯨類は、著しく減少していました。
そのような中、1960年代になってから世界規模で、商業捕鯨に歯止めがかかり始めました。商業捕鯨のモラトリアム、ナガスクジラ、マッコウクジラ などの禁漁、新しい捕鯨の管理方式の導入、インド洋をサンクチュアリ(保護区)に指定、大規模な捕鯨の方法であった母船式の捕鯨の禁止(ミンククジラを除 く)などです。
IWCが行った一連の捕鯨規制は、コククジラやザトウクジラなど、一部の鯨類の保護を実現するという大きな功績を挙げました。わずか数百頭にまで減少してしまったシロナガスクジラを絶滅から救ったのも、一連の保護策が功を奏したことによります。
しかし、この時点で取り決められた規制は、過去の乱獲に対する反動としての志向が強く、しかも多数派である反捕鯨国の主張によって、厳しい運用がなされたため、捕鯨国の反発を招くことになりました。
その結果、長年におよぶ捕鯨派と反捕鯨派の対立により、IWCは泥沼化し、本来目的としているところの、適切な捕鯨の管理が、一向に実現できていな い状態に陥っています。IWCがこのまま機能しなければ、国際的な場で捕鯨のことや鯨類の保護を話し合い、取り決めることが出来なくなってしまうでしょ う。これまでに実現してきたクジラ保護のための努力とその成果を無駄にしたいためにも、IWCをそれぞれの国が持つ意見の相違を乗り越えて捕鯨の管理制度 を確立し、真に科学的で、持続可能な資源利用の在り方を作り上げてゆく、重要な場としてゆかねばなりません。
問題なのはIWCだけではありません。実際、IWCが対象としていない、小型の鯨類の中で個体数が減少している種や、調査が不十分な種は多く、大型 鯨類でも、いまだに個体数が回復しておらず、絶滅の危機にある種は少なくないのです。このような鯨類の保護については、各国がなお一層、保護を充実させて いかなければなりません。これらのことが出来なければ、本当の意味で、国際的なクジラの保護は実現されないのです。
| クジラにまつわる世界の歴史 | |
|---|---|
| 11世紀 | ヨーロッパのビスケー湾で始められた商業捕鯨は、後にアメリカにも広がり、規模を拡大。 |
| 19世紀後半 | 蒸気船や捕鯨砲を用いた欧米の捕鯨活動が始まり、20世紀に入ると、その範囲は、南極の近海域(南大洋)にまで拡大された。 |
| 第二次世界大戦後 | 世界的な食糧不足から、捕鯨の需要は増加。 |
| 1948年 | 資源の枯渇を危惧する声が上がり、各国の捕鯨を管理する国際組織IWC(国際捕鯨委員会)が設立。年間の捕鯨枠が決められる。 その後、鯨油の需要が減り、欧米諸国は捕鯨から撤退。その時すでに、長らく捕鯨の対象となってきた鯨類は、著しく減少。 |
| 1972年 | 国連人間環境会議で10年間の商業捕鯨のモラトリアムが採択。後にIWCはナガスクジラ、マッコウクジラなどの禁漁と、新しい捕鯨の管理方式を導入することを決定。 |
| 1979年 | インド洋をサンクチュアリ(保護区)に指定。大規模な捕鯨の方法であった母船式の捕鯨をミンククジラを除いて禁止。 |
| 1982年 | 10年間の商業捕鯨のモラトリアムを採択。捕鯨を続けていた日本も、モラトリアム開始後、これを受け入れ、沿岸捕鯨と商業捕鯨を中止、一方で調査捕鯨を開始。世界の捕鯨事情は大きく変わる |
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